Jill Chen, Administrator at Product R&D Division of CoreTech System (Moldex3D)
プラスチック射出成形は、世界中の製造業において広く利用されています。従来、生産現場では熟練技術者の経験と勘に依存し、金型トライや成形条件の調整を通じて製品品質を安定させてきました。しかし、この方法は時間とコストがかかるうえ、判断のばらつきによって品質の一貫性が損なわれやすいという課題を抱えています。
スマート製造の進展により、これらの課題はAI技術を統合した高度な管理システムによって解決可能となりました。AIによるリアルタイム分析と予測を組み合わせることで、生産効率と柔軟性が大幅に向上します。
射出成形プロセスにおいてAIは、データ解析とリアルタイム予測を通じてプロセスパラメータを最適化します。これにより、金型トライ時間の短縮、生産安定性の向上、人為的ミスの削減が実現可能です。さらに、AIによる異常検知や保全予知の機能により、潜在的な問題を早期に特定し、停止時間や資源の無駄を低減します。
図1 AIを統合したインテリジェント管理システムは、生産効率と柔軟性を高める
iSLMがデータの価値を最大化する
Moldex3D iSLMは、金型設計およびプラスチック成形に特化したデータ管理プラットフォームです。製品開発のあらゆる段階で生成されるデータや情報を体系的に記録し、企業全体で共有できる包括的なデータベースを構築します。さらに、自動設計支援システムとAI最適化技術を融合することで、データから最大限の価値を引き出し、プロセス効率と品質の向上を実現します。
2025年、iSLMには新たに「Mold Design Discovery」および「Gate Design Discovery」の2つの機能が追加されました。これらの機能は、AIによる高度な成形予測を提供し、最適な設計ソリューションを迅速に導き出す支援ツールです。
● Mold Design Discovery
新しいCADファイルをアップロードすると、システムがナレッジベース内の過去プロジェクトと自動的に類似性比較を行います。アルゴリズムが形状・寸法・構造を解析し、最も関連性の高い参照事例を抽出します。
その後、材料特性や金型設計パラメータなどの重要情報を統合し、予測した情報を提供します。例えば、スプルー圧力や型締力の予測データをもとに、適切な射出成形機を事前に選定することが可能です。また、収縮予測を活用して設計を調整できるほか、サイクルタイム予測をもとにCO₂排出量やコスト見積もりを評価できるため、よりスマートな経営判断を支援します。
図2 iSLM Mold Design Discovery
● Gate Design Discovery
Project Summaryで部品モデルをアップロードすると、ナレッジベースに保存された過去プロジェクトとの類似性比較が自動的に実行されます。比較が完了すると、高い類似度を持つゲート設計のリストが生成され、ユーザーは要求に応じて最適なゲートタイプと位置を選択し、新しいモデルに適用できます。この機能により、ゲート設計のワークフローが大幅に効率化し、設計精度も向上します。
図3 iSLM Gate Design Discovery
透明性の高いAI設計支援
AI技術の導入に際して、多くのユーザーが懸念するのが「AIの意思決定の透明性と説明性」です。AIによる自動設計支援や最適化の結果について、「どのように判断されたのか」「なぜその結果になったのか」が不明瞭だと、システムへの信頼性が損なわれる恐れがあります。また、AIモデルのロジックやデータソースが不明確なままでは、異常発生時の適切な介入が難しく、プロセスリスクが高まります。
iSLMではこうした課題に対し、「説明可能なAI（Explainable AI）」アプローチを採用しています。最適化結果を自動的に適用するのではなく、参照されたプロジェクトと項目を明示し、AI判断の根拠とプロセスをユーザーが確認できるようにしています。
Mold Design Discoveryの例では、類似比較に使用されたすべてのプロジェクトを表示し、参照データの信頼指数（総合／個別）を確認可能です。これにより、設計提案の妥当性を評価し、実際のニーズに応じてフィルタリングや再調整を行う柔軟性が確保されます。
同様に、Gate Design Discoveryでは類似度の高いゲート設計のサムネイルを表示し、直感的な比較が可能です。選択後も適用設計を削除して手動でゲートを再作成できるため、カスタマイズ性を維持します。
図4 iSLMは詳細な参照情報と予測データを可視化し、信頼性を確保
まとめ
多様化・個別化する製品需要とスマート製造の進展により、デジタルトランスフォーメーションは避けられない流れとなっています。AIの導入は、従来の成形課題に対し新たな視点とソリューションをもたらします。
iSLMは、AIによるデータ解析と類似比較を組み合わせ、最適な設計ソリューションと予測結果を提示します。これにより、設計および生産サイクルの短縮、効率の向上を実現します。さらに、AI意思決定に関する透明性の懸念にも対応し、参照プロジェクトと判断根拠を明示することで、ユーザーが安心してAIを活用できる環境を提供します。
