近年、大型プラスチック製品の製造は、軽量・高強度・高耐久性へとデザインのコンセプトが変わって来ています。製品の性能確認試験では軽量性と耐久性・耐衝撃性が主要な要素であり、その2点に優れた性能を発揮するガラス繊維を混ぜた樹脂部品は広く用いられています。繊維強化樹脂（FRP）の生産で主要なパラメーターは次の3つです：繊維配向、繊維長さ（繊維の破壊予測）、繊維密度。そして、この3つが最も強く影響を及ぼすのは、最終的なFRP製品の成功を左右する充填挙動、反り変形、製品の構造強度です。

繊維配向と繊維長さの推定に関する研究も近年は活発に進められており、CAE解析技術を使って、ユーザーはこれらの2つのパラメーターを正確に予測し、製品の反り変形と機械的強度に対するパラメーターの影響をより深く理解することが可能です。ただし、充填挙動に対しては、繊維配向と繊維長さよりも繊維濃度が強く影響します：繊維濃度の上昇は粘性の上昇を意味します。粘度が上昇すると、溶融したポリマーは前方へ流れにくくなります。

繊維濃度の研究は、1956年にMaronおよびPierceによって、サスペンション内に充填する材料の濃度が液体の相対的な粘度に影響する現象を説明した微分公式が確立されたことに始まります。1980年代後半には、Kitano et al.によりガラス繊維やカーボン繊維を含む、サスペンション内の異なるフィラーに関する実験が行われ、MaronおよびPierceの公式と実験結果が一致することを検証しました。

Fig. 1 ガラス繊維とカーボン繊維を含むフィラーの実験結果と公式の一致
(出典: An empirical equation of the relative viscosity of polymer melts filled with various inorganic fillers, T. Kitano, T. Kataoka, and T. Shirota, 1980)

Moldex3Dは、調査研究と科学実験に基づく、繊維配向・繊維長さ・繊維濃度の3つの要素の推定が包括的に可能な唯一の解析ソフトウェアです。前述のとおり、この3つの要素は射出成形により生産されたFRP製品の材料特性に直接的な影響を与えます。従来から対応されていた繊維配向と繊維長さの解析機能に加え、Moldex3D R13には「繊維濃度予測 (Fiber Concentration Prediction)」機能が搭載されました。Moldex3D R13は、これまでCAE解析ソフトウェアに欠けていた繊維濃度の解析機能を有する市場で唯一のソフトウェアです（2015年11月現在）。Moldex3Dのパワフルな計算により、Tru3D数値計算で解析された部品とバランスのとれたサスペンションモデルを通して、粒子体積率の保存式が導き出せます。2012年に発表されたVélez-García et al.の実験結果と解析結果の比較によって、Moldex3Dの解析精度を検証した結果をFig. 2に示します；解析結果と実験結果はいずれも、繊維濃度分布が、充填速度に直接影響する溶融粘度に深く関わっていることを示しています。

Fig. 2 左：実験に使用したモデル形状と、平面における繊維濃度。右：実験結果と解析結果の比較。グラフが示すように、
実験と解析の2つの結果はおおむね一致している。

Moldex3Dの繊維濃度解析という革新的な技術で、FRP製品の材料特性に与える繊維配向、繊維長、そして繊維濃度の影響を包括的に解析することができ、従来実現できていなかった繊維濃度の解析が、Moldex3Dの新機能により可能になりました。その強力かつ高速な繊維解析は、FRP製品設計の解析の課題への取り組みを容易にします。正確な解析結果を迅速に得られることで設計の最適化に要する時間が大幅に短縮され、より高品質な製品を効率的かつ迅速に市場へ投入でき、さらには、FRP製品がもつ軽量化というコンセプトも、なおいっそう明確になります。