編集:Moldex3D技術サポートチーム エンジニア 頼民阡
- 顧客名:STマイクロエレクトロニクス
- 国名:イタリア
- 業種:半導体
- 導入ソリューション:Moldex3D ICチップパッケージングモジュール
STマイクロエレクトロニクスは、46,000人の従業員を擁し、100,000件の顧客と数千社のパートナーを抱える世界最大の半導体メーカーの1つです。(出典)
概要
STマイクロエレクトロニクスのエンジニアは、Moldex3D ICチップパッケージングソリューションを使用することで、不完全な樹脂充填のリスクを最小限に抑えています。まず、ソフトウェアでアンバランスな充填挙動によって引き起こされるボイドの発生状況を再現し、次に、Moldex3Dのシミュレーションでパッケージング設計を最適化し、問題発生のリスクを低減します。製品形状の変更は充填時のメルトフロントに大きな影響を与え、最終的に、成形プロセスでの構造的な不良の発生を避けることができます。Moldex3Dを使用することで、仮想環境での問題予測が可能となり、そのシミュレーション結果を新製品のパッケージングのプロトタイプ製造に反映させ、組み込むことができます。
課題
- アンバランスな充填挙動の改善
- ウェルドライン、ボイドの低減
導入ソリューション
STマイクロエレクトロニクスの設計者によると、標準的な構成のダイパッドのサイズを縮小することで、キャビティのトップとボトムの間のアンバランスな充填挙動を抑制できるとしています。リードフレームのダイパッドは重要な位置にあるため、その設計の最適化は充填挙動に対して目覚ましい効果を発揮することが期待できます。実際に、この方法によって完成品の目立つウェルドラインの数が低減されることから、このソリューションでは、時間とコストを要する実験によるプロトタイプ製造ではなく、設計の面からボイド問題解決にアプローチします。
成果
- 目立つウェルドラインが発生する可能性の高い場所の特定
- ウェルドラインの会合角、ボイドの発生する可能性の低減
ケーススタディ
ICパッケージングとは、ICチップをエポキシ樹脂成形材料(EMC)でキャビティ内に封止するプロセスのことで、プランジャーでタブレットをキャビティに押し込みます(図1参照)。
図1 ICパッケージングプロセス
ICパッケージングの一般的な問題として、不完全な充填、ボイド、ワイヤースイープ、ワイヤークロスオーバーなどがあります(図2参照)。生産ロスや顧客クレームを防止するためには、生産前の早い段階で問題を予測し、改善することが必要となります。
図2 ICパッケージングでの一般的な問題
STマイクロエレクトロニクスのチームは、Moldex3Dを使用したICチップ製品のメッシュモデル作成にあたり、製品が左右対称であることから、解析時間を短縮するために、モデルの半分のみを作成することにしました(図3)。
図3 実際のモデルとMoldex3Dメッシュで作成されたモデル
Moldex3Dによる解析の結果、シミュレーションと実験の結果がほぼ一致していることが確認できました(図4)。
図4 元の設計での実験とシミュレーション結果の比較
シミュレーション結果から、アンバランスな流動とボイドの発生原因を簡単に特定することができました。図5に示すように、非対称な製品形状により、トップ(前面)の流速がボトム(下面)よりも速く、またボトム(下面)では反転するために、空気がキャビティの下面に閉じ込められ、ウェルドラインやボイドが発生しています。
図5 充填段階でのメルトフロント挙動
問題の原因特定後、ダイパッドのサイズを縮小して(図6)設計を最適化し、解析したところ、アンバランスな流動とウェルドラインの問題が大幅に改善されていることが確認できました(図7、8)。
図6 元の設計と最適化された設計のリードフレームの比較
図7 元の設計と変更された設計のメルトフロントの比較
図8 元の設計と変更された設計のウェルドラインの結果
結論
本事例においてSTマイクロエレクトロニクスは、Moldex3Dを用いてシミュレーションを行い、ダイパッドのサイズを縮小することで、アンバランスな流動、ボイド、ウェルドラインの問題を解決し、また、製品の局所的な機械強度を向上させることができました。Moldex3Dを用いて不具合の事前予測をすることで、時間とコストを要する試作を行うことなく、早い段階でコストをかけずスピーディーに問題を解決することができます。