完全カップリング解析:同時処理による解析精度向上

CAEによる樹脂流動解析技術の発展により、金型製作前の製品の問題予測、現場でのトライ&エラーにかかるコストと時間のロス削減、生産プロセスの効率化と製品の高品質化が可能になりました。Moldex3DバージョンR15の解析プロセスに新たに実装された「完全カップリング解析」は、製品設計と金型設計に有用な、より精度が高く信頼性の高い解析データを提供します。この計算の特徴は、タイムステップごとにプログラムソルバー間でデータの交換を行うことで、リアルタイムで解析結果を現実のものに近づけることができる点にあります。以下では従来の解析と完全カップリング解析の特徴についてご説明いたします。

従来の解析プロセス

充填、冷却、保圧、反り変形はそれぞれ異なる解析プログラムで行われ、逐次処理されます。同時処理ではないため、異なるプログラム間のコミュニケーションはファイルを通して行われていました。ファイルによるデータ引き継ぎは一方向です。たとえば、充填解析の実行中には冷却解析はすでに完了しており交換データファイルが作成されているため、リアルタイムで互いに作用しあうことはできません。相互作用を考慮するためにより頻繁なデータ引き継ぎを行う場合には、ファイルとハードディスクの使用容量もさらに大きくなります。

完全カップリング解析プロセス

完全カップリング解析では、充填、冷却、保圧、反り変形の計算カーネルが統合されているため、この4種の計算を同時に実行することができ、金型内部の各種物理量も相互に影響を与えることができます。完全カップリング解析は実際の成形プロセスに近く、高い信頼性をもつだけではなく、複雑な製品形状の蓄熱予測に利用することもできます。

Fig. 1は完全カップリング解析と従来の解析による事例の説明、それぞれの解析結果、充填圧力と製品の冷却終了時の温度分布の比較です。充填段階におけるせん断加熱と冷却段階における金型温度は、高い頻度で相互に作用します。完全カップリング解析ではこの相互作用を考慮し、蓄熱効果をより明確に計算します。この点は、完全カップリング解析と従来の解析による圧力解析結果の差からも明らかです。完全カップリング解析結果の最高温度(97.5℃)は従来の方法(86.1℃)と比較して11.4℃高くなっています。圧力データもまた伝達しやすい状況下にあるため、完全カップリング解析の製品内部の平均圧力(1.75MPa)も従来の方法(2.04MPa)と比較して0.29MPa低くなっています。

fully-coupled-analysis-brings-optimal-accuracy-jpFig. 1 完全カップリング解析と従来の解析の結果比較

上記の事例から、Moldex3Dの新しい完全カップリング解析機能は、解析精度をさらに高めることができると言えます。特に複雑で多様な形状の製品をもつ自動車業界や、ミクロン(μm)単位の寸法精度が要求される光学レンズなどの製品において、正確で信頼性の高い予測結果は非常に重要です。Moldex3Dの完全カップリング解析は信頼性の高い製品設計を早期に具体化することで、金型試作コストを大幅に削減します。


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