コアテックシステム製品部門 マネージャー 蔡耀震 |
Moldex3Dは、流動解析の精度を向上させるため、バレルとノズルのシミュレーション、ICディスペンシングプロセスシミュレーションといった高度なシミュレーション技術を取り入れ続けています。そのような高度なシミュレーション技術をより扱い易くするため、関連するシミュレーションに必要な前処理機能を向上させ、以下に挙げるような一般的な射出成形シミュレーションにおける課題を克服する必要があります。
- 3Dバレル圧縮解析では、バレルとノズルのメッシュ作成が容易ではありません。メルトエントランスに到達する前の溶融樹脂挙動を正確に計算するには、高品質のソリッドメッシュが必要となります。そのため、Moldex3Dメッシュでは、複雑なメッシュを作成しなければならないことが多く、このシミュレーション解析の難易度を高めることになっています。
- これまでICディスペンシングプロセスのメッシュもまたMoldex3Dメッシュで作成されていたため、チップ、はんだボール、オーバーフローエリアといった各ICパッケージングコンポーネントに対し、高さやレイヤーごとにメッシュを作成する必要があります。また、メッシュ要素数も非常に多くなり、メッシュ密度の調整が、全体に大きな影響を与えてしまうことになります。
- 現在のところ、コンフォーマル冷却回路の作成に適したソフトウェアはほとんどない状況と言えます。ユーザーは製品表面に沿った一定の距離に冷却回路を作成しなくてはならず、その多くは3D形状で作成されるため、制御や調整は容易ではありません。
- 製品の設計変更前後の結果を比較する際、メッシュ密度の差が解析結果に影響するのを避けるため、通常は、設計変更前と同じノード配置を設計変更後の製品に対しても使用します。より複雑な事例や複数回にわたる設計変更の結果を比較する必要がある場合、これらの作業は多大な時間と手間を要するものとなります。
- メッシュ作成プロセスにおいて、複雑な形状の製品では、細長いフィレットや狭小面にアスペクト比不良のメッシュが発生しやすく、ユーザーはその調整や修復に多くの時間を費やさなくてはなりません。
これらの課題に対応するため、Moldex3D Studio 2021ではモデリング作業効率を向上させるさまざまな前処理ウィザードを提供しています。また、ノード配置を同期するメッシュ作成設定機能やアスペクト比の修復機能も追加され、ユーザーの使用環境を十分に考慮し、前処理でのメッシュ作成において生じるさまざまな問題を解決します。以下ではその主な機能について紹介します。
ノズルゾーンウィザード (Nozzle Zone Wizard)
Moldex3Dに高品質のノズルゾーンメッシュを自動作成できるノズルゾーンウィザード機能が追加されました。ユーザーはノズルゾーンを作成してスクリュー圧縮時における溶融樹脂挙動をシミュレーションし、より現実的な流量と溶融樹脂温度を把握することができます。
ウィザードでは3種類のノズル先端とノズルボディによる9種類の組み合わせが提供され、これに対応する線形構造のノズルゾーンが作成されます(図1)。ユーザーはこれらのタイプのノズルゾーンを参考に、実際のサイズに合わせて調整することができます。ノズルゾーンのサイズを設定すると、適合する高品質のメッシュを自動作成し、実際のスクリュー圧縮時における溶融樹脂挙動をシミュレーションすることが可能です(図2)。
図1 ノズルゾーンウィザードで提供されるノズルのタイプ
図2 ソフトウェアで自動作成される高品質のノズルゾーンメッシュ
ICパッケージングのハイブリッドメッシュ自動作成ウィザード
Moldex3D Studio2021では前処理におけるIC製品の自動メッシュ作成機能が正式に追加されました。ICパッケージングのハイブリッドメッシュ自動作成ウィザードにより、ユーザーはICパッケージングの流動解析の前後処理をすべてStudioで完結させることができます。まず、3DのICパッケージングコンポーネントを作成します(図3)。ICの2Dスケッチの曲線を選択し、Z方向の位置、コンポーネントの高さ、属性情報を設定し、エポキシ樹脂(Epoxy)、基板(Substrate)、テープ(Tape)、リードフレーム(Leadframe)、チップ(Chip)、はんだボール(Bump)などのICコンポーネントを作成します。
図3 3DのICパッケージングコンポーネント作成
次に、ICメッシュ自動作成ウィザード(図4)を使用してメッシュを作成します。設計変更後にメッシュが自動作成されるため、時間を大幅に短縮しながらこれまでの手作業によるメッシュと同等の品質を維持することができます。図5は、現在StudioにおいてICパッケージングのハイブリッドメッシュ自動作成ウィザードでサポートされているIC製品タイプで、トランスファー成形、圧縮成形、内蔵ウェハレベルパッケージ(EWLP)、アンダーフィルなどの一般的なIC製品が幅広く含まれています。また、複雑な形状のランナーもサポートされています。BLMメッシュ技術によりランナーメッシュが作成され、ハイブリッドメッシュでICコンポーネントが作成されると、ゲートエリアでメッシュが自動的に接続されます。
図4 ICメッシュの自動作成
図5 StudioのICハイブリッドメッシュ自動作成ウィザードでサポートされるIC製品タイプ
コンフォーマル冷却回路ウィザード
Moldex3D Studio 2021では、新しくなったコンフォーマル冷却回路ウィザードが搭載され、柔軟性に富む多様なコンフォーマル冷却回路設計の解析結果を提供します。主要な機能としては、ユーザーから提供された2D冷却回路パスの投影によるコンフォーマル冷却回路の迅速な作成に加え、以下の機能が追加されています。
(a) 図6(a)に示すように、冷却回路を型厚まで延長するかを選択することができます。
(b) 図6(b)に示すように、最小型厚を制御して、冷却回路を止まり穴内部に進入させるかを設定することができます。
(c) 図6(c)に示すように、6軸方向に投影し、製品凹穴内部にコンフォーマル冷却回路を作成して放熱効果を高めることができます。
図6 コンフォーマル冷却回路ウィザードのさまざまな機能
設計変更前後のノード配置の一致処理
製品の設計変更前後のノード配置密度を一致させるために、Moldex3D Studioではノード配置の同期機能を提供しています。設計変更後のジオメトリモデルに対し、元のモデルからノード配置データを自動的に抽出して、元のモデルと同等の解像度ですばやくマッピングすることができます。また、マッピングされていないエッジが強調表示されるため、ユーザーは必要なノード配置データを迅速に設定することができます(図7)。
図7 ノード配置の同期機能による設計変更前後のノード配置の一致処理
アスペクト比の修復
新たに追加されたアスペクト比の修復機能(図8)では、アスペクト比不良のメッシュをすばやく自動修復することができます。アスペクト比はメッシュ欠陥ツリーで定義することができるほか、修復の範囲を調整することもできます。複雑な形状や細かなフィレットの多い製品では、この機能を使用することで、重要な特徴を維持しながら、メッシュの修復にかかる時間を大幅に短縮することができます。
図8 アスペクト比不良メッシュの自動修復
Moldex3D Studio 2021では、3つの新しい前処理ウィザードと革新的なメッシュツールが搭載され、射出成形や各種高度なプロセス解析のための、高品質、高解像度のメッシュをより効率的に作成できるようになりました。Moldex3Dは、インダストリー4.0の展開において常にその最前線に立ち、ユーザーのスマート製造実現を強力に後押しする、多様で高機能なシミュレーションツールの研究開発に取り組んでいます。