IC業界における信頼性試験:温度サイクル試験のシミュレーションによる熱疲労予測

コアテックシステム 研究開発部 エンジニア 鍾智宜

概要

温度サイクル試験 (Thermal Cycling tests, TCT) はIC業界における信頼性試験の重要な試験項目のひとつです。周囲温度が繰り返し上下する環境下において、製品が設計サイクル内でその品質を維持できるかを評価するために行われる試験となります。TCT試験の内容としては、パッケージングされた製品を温度管理された環境に置き、毎分5~15℃の温度変化速度で製品を高温、低温の温度変動にさらすというものです。最も一般的な破壊モードは、製品の内部コンポーネントの熱膨張係数が異なる(CTE differences)ために生じるもので、製品の内部コンポーネント境界面の熱応力と冷却サイクルで蓄積された残留応力(residual stress)の影響を繰り返し受けることで最終的にコンポーネント間の剥離、コンポーネントの破断、そして最もよく見受けられるはんだクラック(Solder crack)を引き起こします。

実際のところ、コンポーネントの設計、型開き、パッケージングから実際の温度サイクル試験までには往々にして膨大な時間と人的、物的リソースが必要となります。そのため、コンピュータで温度サイクル試験をシミュレーションし、シミュレーションで予測された温度サイクル数を設計変更や設計の最適化の参考として用いることが、プロセス全体の高速化と開発コストの削減を図るための重要な課題となっています。

熱疲労モデル

熱疲労破壊(Thermal fatigue)現象をシミュレーションするために、多くの研究で熱疲労モデル(Thermal fatigue model)が提案されており、モデルで使用される物理量に従って、応力ベース(Stress base)、ひずみベース(Strain base)、エネルギーベース(Energy base)の3つのモデルに分類することができます。その中でも応力ベースのCoffin-Manson則は低サイクルの疲労破壊を予測するのに最も広く用いられています(Wang et al., 2017)。Coffin-Manson則で予測されるサイクルモデルは以下のとおりです。

このモデルでは材料の疲労延性係数(Fatigue ductility coefficient)、塑性ひずみ範囲(amplitude of plastic strain)、疲労延性指数(Fatigue ductility exponent)を使用して疲労サイクル数を予測します。疲労延性指数は修正Coffin-Manson則から求めることができます。

はサイクル平均温度、はサイクル頻度(Cycle/day)となります。

 

塑性ひずみモデル

熱疲労モデルのパラメータには、表や実験から得られる材料の疲労延性係数のほか、温度サイクル試験のシミュレーションから得られるサイクル平均温度とサイクル頻度があります。固体力学の解析結果から直接得ることが難しいパラメータ、塑性ひずみ範囲 については、材料特性を解析し、対応する塑性ひずみモデルを特定することで予測することができます。

熱疲労により破壊が生じやすいはんだボール(Solder ball)やリードフレーム(Lead frame)のような金属製ICコンポーネントについて、その塑性挙動は等方硬化(Isotropic-hardening)を考慮したPrandtl-Reussモデルを使用して求めることができます。

は単軸降伏応力(uniaxial yield stress)、は相当塑性ひずみ(plastic equivalent strain)、は基準ひずみ成分(reference strain component)、はフォンミーゼス応力(von Mises stress)、は無次元材料定数(non-dimensional material constant)、はべき乗硬化指数(power-law hardening exponent)を表します。このモデルは、各サイクルでの繰り返し荷重によって試験片が塑性に達せず、永久変形を生じさせる場合に適しています。

 

温度サイクル試験のシミュレーション解析

本研究では非線形を考慮したMoldex3D Stress解析のPMC(post mold curing)ソルバーを使用し、温度サイクル試験における温度と時間の関係を入力して解析を行いました。


図1 ポストキュアプロセスにおける周囲温度設定


解析結果の各サイクルの残留応力におけるフォンミーゼス応力の最大値を疲労破壊の観測点とし、設定温度とフォンミーゼス応力解析結果の関係をプロットしたものを下図に示します。


図2 内部応力と周囲温度による温度変化

前述の塑性ひずみPrandtl-Reussモデル、材料の降伏応力、フォンミーゼス応力を使用して相当塑性ひずみを予測します。このシミュレーション結果の平均温度、サイクル頻度の情報を出力し、修正Coffin-Mansonモデルから破壊が生じるまでに必要なサイクル数を求めることができます。

結論

本稿では材料粘弾性を考慮したMoldex3Dのポストモールドキュアソルバーを使用し、温度サイクル試験の周囲温度、対応する時間を入力して、TCT試験における時間経過と温度変化にともなう応力分布を求めました。応力分布でフォンミーゼス応力値が最大となる点を熱疲労破壊が発生する可能性の最も高い場所として記録しました。この点の経時変化にともなう応力状態から相当塑性ひずみ範囲を予測し、最後に同一条件下で熱疲労モデルを評価し、破壊が生じるまでに必要なサイクル数を求めました。

現在使用されている熱疲労モデルと塑性ひずみモデルは幅広く使用できるモデルであり、機械挙動が単純な金属材料解析に使用されますが、使用されるモデルのパラメータにはより完全な実験から取得しなければならないものがあります。将来的にはユーザーが選択した材料に対して最適なモデルを推奨し、検証済みの材料パラメータを使用してユーザーの参考になる正確な予測サイクル数をフィードバックすることが可能となります。Moldex3Dは、ソルバーカーネルとワークフローを継続的に最適化し、CAE信頼性解析を更に統合することで、製品評価サイクルを加速します。


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