Moldex3D技術サポートチーム エンジニア 賀資閔
ケルヒャー(Kärcher)はグローバル市場における洗浄・清掃システムのリーディングカンパニーであり、3000種類以上もの製品を提供しています。(出典)
概要
ケルヒャーでは年間数百万点に上るプラスチック成形品が製造されており、そり変形は成形品の機能や外観に深刻な影響を与えますが、費用対効果は製造に必要な成形装置のサイクルタイムとサイズによって決定されます。ケルヒャーでは、Moldex3Dを使用することにより、これらの目標の最適化を完全自動化するシミュレーションワークフローを提案しました。このワークフローの利点は、成形品の形状、プロセス条件、金型設計を同時にパラメータ化することができる点にあり、成形品の開発から金型製作、最終的な量産にいたるまでの、設計、製造プロセス全体を考慮することができます。
課題
- 形状設計、金型設計、プロセス条件の最適化
- 成形品の品質と製造コスト
- シミュレーションプロセスの完全自動化
導入ソリューション
Moldex3D APIの利用によるシミュレーションプロセスの自動化
成果
- そり変形、充填挙動、サイクルタイムの最適値の特定
- シミュレーションの完全自動化
- 開発期間の短縮
ケーススタディ
本事例の目的は、バッテリースロットのそり変形を解消することにあります。この成形品には、図1に示すように、1.平坦な取り付け面、2.平坦なバッテリースライド、3.ねじ頭の位置といった3つの品質基準があります。最適なソリューションを特定するため、ケルヒャーのチームでは、まず様々な変更条件を設定し、次にMoldex3Dでの検証を行いました。変更条件の設定手順は以下の通りです。
図1 元の設計と主な品質基準
ステップ1:製品設計の変更
ケルヒャーのチームでは既存のリブの設計変更やリブの追加などを含む38の形状に関する非依存パラメータを変更しました(図2)。
図2 形状最適化パラメータ
ステップ2:金型設計の変更
本事例ではゲート位置のみを変更しました(図3a)。
ステップ3:プロセス条件の変更
充填時間、保圧時間、溶融温度、切り替え時間、冷却液温度(図3b)、冷却時間を含む14の製造プロセスに関するパラメータを変更しました。
図3 (a)ゲート位置の変更、(b)冷却液温度の変更
パラメータの変更後、Moldex3D APIによる検証を行いました(図4)。12コアのコンピュータ1台で200回のシミュレーションを実行したところ、計算時間は1週間未満となり、複数のシミュレーションを並列実行することでシミュレーション時間はさらに短縮することができます。
図4 Moldex3D APIイメージ
最適化された各応答値を取得するため、情報を抽出したい領域にセンサーノードを追加し、32カ所でそり変形の検出を実行し、5グループの二乗平方根で最適化を行いました(図5)。
図5 そり変形の最適化領域
ケルヒャーのチームは、その中から2つの最適化方向を選択し、そり変形と成形サイクルの結果を観察しました。そり変形に特化した最適化では、成形サイクルを許容範囲で維持しながらそり変形を大幅に減少させることができました(図6)。それに対して、成形サイクルに特化した最適化では、成形サイクルを短縮しながらそり変形も大幅に減少させることができました(図7)。
また、Moldex3Dのシミュレーション結果と実際の成形品がほぼ一致していることも確認されました(図8)。
図6 元の設計と変更後の設計の比較(そり変形の最適化に特化)
図7 元の設計と変更後の設計の比較(成形サイクルの最適化に特化)
図8 シミュレーション結果の検証
Moldex3Dはシミュレーションワークフローに高度な自動化とカスタマイズ性をもたらし、製品の形状、金型設計、成形プロセスの変更が1つのワークフローで完了し、信頼性に優れた、誤差の少ないシミュレーション結果を得ることができました。
結論
本事例では、ケルヒャーはMoldex3D APIを利用したシミュレーションにより、そり変形を70%減少させるとともに、成形サイクルの短縮に成功しました。Moldex3D APIはシミュレーションワークフローを自動化することで、ユーザーが入力を行うことなく全てのシミュレーションを自動的に実行することができます。さらに、他の機能を統合し、CADシステムを使用して成形品の形状を自動的に作成、変更することができます。本ソフトウェアを使用することで、成形品の形状や、さらには金型設計、成形プロセスに関する多くのパラメータを変更し、そり変形、充填挙動、サイクルタイム、その他目標とする指標の最適値を特定し、開発期間の大幅な短縮が可能となります。