Edited by Alvin Hsu, Account Manager of Moldex3D Europe
- 顧客名:JKU/高分子製品工学研究所(Institut für Polymer Product Engineering)
- 国名:オーストリア
- 業種:教育
- 導入ソリューション:Moldex3D Advanced Package、Flow、Pack、Cool、Warp、Fiber、Designer BLM
JKU(ヨハネス・ケプラー大学、Johannes Kepler Universität Linz)は、創立約50年のオーバーエスターライヒ州最大の研究・教育機関です。現在、本学では20,000人を超える正規学生が在籍しており、多様な学位プログラムが提供されています(出典:https://www.jku.at/en/)
概要
製品品質を期待するレベルに押し上げ、公差ニーズを満たすには、そり変形予測が極めて重要な要素となります。繊維強化プラスチックにおいては、それがことのほか顕著に現れます。素材の粘弾性がそり変形に与える影響を考慮する重要性および応用の程度もまた一般化しつつあります。本研究では、粘弾性がそり変形解析に与える影響の研究にMoldex3Dを用いています。また、リブを含んだ実験モデルを利用して3Dスキャンを行い、検証を行うことにより、異方性を持つ繊維強化プラスチックの粘弾性挙動を確立する方法を開発しました。その結果、正確な粘弾性モデルおよび測定方法がそり変形挙動の再現に不可欠なものであることが判明しています。
課題
- 製品のそり変形をシミュレーションして実験・検証を行えるシステムを開発する必要がある
- そり変形シミュレーションにおける粘弾性の重要性を理解する
- 実際の製品においてそり変形を減少させる方法を研究する
導入ソリューション
Moldex3Dを利用して完全な非定常冷却解析を行い、標準のそり変形および粘弾性を考慮したそり変形ソルバーを通じてそり変形予測値を入手します。その上でGOM社製のATOS Triple Scan IIIを使って3Dスキャンを行い、解析の反り予測結果を比較・検証します。
メリット
- 粘弾性オプションを導入することにより、製品の最大そり変形予測の精度が繊維を含まない素材で520 %、繊維を含む素材で78 %の上昇
- そり変形に影響を及ぼす重要な因子を判別
- 試行錯誤法の開発コストの削減
ケーススタディ
本プロジェクトは、Moldex3D本社でのインターンシップ経験を持つ博士課程学生・Philipp Siegfried Stelzer氏、JKU高分子製品工学研究所・Major教授およびポリプラスチック株式会社ドイツ法人(Polyplastics Europe GmbH)の共同研究により行われました。
製品品質の確保には正確なそり変形予測が求められます。そり変形予測の傾向および値を正確にシミュレーションするため、まずもって材料特性を把握しなければなりません。すなわち、本プロジェクトの目的は、材料の粘弾性がそり変形予測に与える影響を検証することにありました。
ベンチマークテストにおいて、純ポリブチレンテレフタラート(PBT)およびガラス短繊維を30 %含んだPBTの2種類の材料を使用しました。本プロジェクトでは、材料の熱流動性および機械的性質を把握するため、材料の測定も行いました。これらはいずれもMoldex3Dでシミュレーションを行うときに必要な情報です。続いて動的機械分析(DMA)を行い、プロニー級数を用いてフィットさせて粘弾性モデルの校正マスターカーブを作成しました。このベンチマークテストに用いたコンポーネントは、射出成形のリブボックスであり、ATOS Triple Scan IIIを使用して3Dスキャンを行って解析結果を検証しました。
シミュレーションにおいて、Moldex3D BLMメッシュをモデルの作成に使用し、コールドランナーおよび冷却回路は実物どおりに作成しました。また、モデル内に21個の測定ノードを設け、Z方向のそり変形値の検証を行いました(図1)。
図1 テストコンポーネントのシミュレーションモデル
さらに、Moldex3Dの標準のそり変形モジュールを用いて非定常冷却解析(Ct-F-P-Ct-W)を行うとともに、エンハンスドそり変形ソルバーを使用して変形挙動を予測する必要がありました。最初に標準的なそり変形ソルバーを使用して純PBTのシミュレーションを行ったところ、粘弾性を考慮していないため、製品のそり変形傾向を正確に予測できませんでした。そこで粘弾性を考慮したエンハンスドソルバーを使用すると、よりリアルなそり変形結果の再現に成功しました。他方、繊維強化プラスチックを含んだものについては、標準的なソルバーおよびエンハンスドソルバーのいずれにおいても正確なそり変形現象を予測できました。その理由は、異方性のある素材特性が流動による繊維配向を生み出し、そり変形挙動の最大要因になったことにあります(図2)。また、更に粘弾性を考慮した場合は、そのZ方向変形の絶対値が更に実物の結果に近づくことも明らかになりました(図3)。
図2 繊維強化プラスチックの異方性
図3 2種類のPBT材料のそり変形予測検証結果
結論
本研究を通じて、シミュレーションにおいて材料の粘弾性を考慮することが極めて重要であることが実証されました。Moldex3Dは、粘弾性を考慮に入れると、純プラスチックおよび繊維強化プラスチックのいずれの予測においても、そり変形予測結果の精度を向上させることができます。