流動解析と実験計画法(DOE)の組み合わせにより最適なソリューションをすばやく特定

コアテックシステム 研究開発部 エンジニア 陳奕廷

実験計画法(Design of Experiment, DOE)

射出成形製品の最終的な品質には、製品設計、金型設計、材料特性、成形条件などのさまざまな要因が関係しており、こうした要因の変化が品質に影響を与えることがあります。要因の変化が与える影響を1つ1つ特定していく従来の試行錯誤による方法は非常にコストがかかり、非効率的です。キーとなる要因を効率的にすばやく特定し、成形上の問題を解決し、製品の品質を最適化するには、体系的な実験計画法(Design of Experiment, DOE)を採る必要があります。各要因が品質にどのような影響を与えるか、また、それらの関係を調査することで最適な設計を決定することができます。

生活の中での問題を例に挙げると、コーヒーの美味しさは焙煎度(浅い、深い)、脱水度(低い、高い)、浸漬時間(短い、長い)、浸漬温度(低い、高い)などの影響を受けます。1度に1つの要因を変化させる実験では多大な時間とコストが必要となり、2つ以上の要因を変化させると、どの要因の変化が実験に大きく影響したのかを正確に特定することができません。射出成形の問題の場合、メルトフローレート、溶融温度、キャビティ内の樹脂圧力、樹脂冷却速度などの要因がそり変形の結果に影響することが知られています。こうした多くの要因の影響がある中で、豊富な経験に基づく方針なしに試行錯誤で問題解決にあたるのは必ずしも良い方法とは言えないため、DOEが重要となります。

DOEは実用的なアプリケーションであることに加え、CAEソフトウェアを組み合わせて使用することもできます。最適化ソフトウェアはさまざまな実験計画法を提供し、CAEの流動解析結果から最適なソシューションを導き出し、相互通信によって反復実行します。Moldex3D Studioは単一プラットフォームで流動と最適化解析を同時に完了させることができるため(図1)、化学的なDOE試作プロセスの実現が可能です。以下では実験計画法で最適化設計を決定する方法と実際にソフトウェアをどのように役立てるかを説明します。

図1 Moldex3D Studioは単一プラットフォームで流動と最適化解析を同時に完了させることが可能

最適化設計を決定する方法

DOEにおいて最も重要なのは、制御因子(Control Factor)と品質因子(Quality Factor)で、品質因子は通常、解決または改善すべき問題であり、制御因子は実験の変数となります。各制御因子がキーとなる因子であるかどうか、その最適な水準(Level)がどのようなものであるかを判断することが、さまざまな最適化方法における重要課題となります。先に述べたコーヒーで例えるならば、品質因子はコーヒーの美味しさを設定し、制御因子は上述の4項目に影響する因子で、それぞれ2つの水準があります。DOEは4つの因子のどれが最も大きい影響を与え、どの水準を選択すると最も美味しいコーヒーになるのかを見つけ出すのに役立ちます。

Moldex3Dはタグチメソッド(Taguchi Method)と総当たり法(Full Factorial Experiment Method)の2つの方法を提供しています。2つの方法の最大の違いは、タグチメソッドでは直交表(Orthogonal Array)を用いてデータを収集し、直交表の実験のみを解析するのに対し、総当たり法では制御因子と水準に関する可能なすべての組み合わせについて実験を行い、データを収集する点にあります。総当たり法を用いると実験回数が多くなり、時間とコストも増加しますが、すべての因子の影響を考慮した結果を得ることができます。コーヒーの例でいうと、総当たり法では24=16通りの組み合わせすべてについて実験が行い、タグチメソッドでは、直交表L8(またはL12)にリストされている8通り(または12通り)の組み合わせ(表1)についてのみ実験を行うだけで信頼できる結果を得ることができます。

 

実験 1 A1 B1 C1 D1
実験 2 A1 B1 C2 D2
実験 3 A1 B2 C1 D2
実験 4 A1 B2 C2 D1
実験 5 A2 B1 C1 D2
実験 6 A2 B1 C2 D1
実験 7 A2 B2 C1 D1
実験 8 A2 B2 C2 D2
表1 4つの制御因子に対応するタグチメソッド直交表L8

 

信号対雑音比(Signal-to-noise ratio, S/N比)は、本来、電子通信分野で使用される重要な尺度でしたが、のちに統計分野でも幅広く使用されるようになりました。DOEのCAEシミュレーションでは、同じ設定でのシミュレーション解析結果が毎回同じであることに注意する必要があります。他の外的要因(ノイズ)を考慮しない場合は、複数回の解析を平均化する必要はありません。本来のS/N比の標準的な算出法とは若干異なるものの、その概念を流動解析に応用することで、さまざまな水準での品質因子に対する制御因子の影響を比較することができます。品質因子で設定する目標(Goal)には、望小(Smaller)、望大(Larger)、望目(Nominal)、均一(Uniform)があります。S/N比の算出にさまざまな式を適用してみると、S/N比が大きいほどその信号がバックグラウンドノイズよりも強いことを表し、理想的な水準であると言えます。コーヒーの例に戻ると、品質因子は当然望大である必要があり、各制御因子の同じ水準での平均S/N比を算出すると(表2、図2)、コーヒーの美味しさに最も大きな影響を与えるキー因子は焙煎度であることがわかります。最適な組み合わせは、浅煎り焙煎、高度脱水、短時間浸漬、高温浸漬となります。

  焙煎度 脱水度 浸漬時間 浸漬時間 コーヒーのスコア S/N Ratio
実験 1 浅い 低い 短い 低い 80 38.06179974
実験 2 浅い 低い 長い 高い 70 36.9019608
実験 3 浅い 高い 短い 高い 85 38.58837851
実験 4 浅い 高い 長い 低い 75 37.50122527
実験 5 深い 低い 短い 高い 75 37.50122527
実験 6 深い 低い 長い 低い 60 35.56302501
実験 7 深い 高い 短い 低い 65 36.25826713
実験 8 深い 高い 長い 高い 75 37.50122527
表2 実験データとS/N比

図2 信号対雑音比(S/N比)応答図

 

この方法は複数の品質因子にも応用が可能で、各品質因子の重み付けを設定することで、複数の品質因子について重みづけした平均S/N比を算出し、各制御因子の最適水準を決定することができます。

応答曲面(Response Surface)は独立変数と応答変数の関係を調べるための数学的モデルで、実験データから最小二乗法(Least Square Estimation, LSE)によって二次(または一次)関数のフィッティングモデルを求めることができます。この曲面はシミュレーションを行わすに実験予測モデル(図4参照)として使用することができ、先に述べたコーヒーの実験では、浸漬時間が1分または2分のように水準が明確な値であれば、導き出された応答曲面から浸漬時間が1.5分の場合に得られるコーヒーのスコアを予測することができます。

以下では、最初に述べた射出成形におけるそり変形の問題に戻り、Moldex3D StudioでDOEを用いて問題を解決する方法を説明します。

 

Moldex3D Studioで問題を解決するには?

そり変形の問題を解消して設計を最適化するにはどうすればよいのでしょうか?そり変形の総変位を品質因子として設定し、充填時間、樹脂温度、保圧時間などの変化させたい要因を選択し、制御因子として設定します。続いて、各水準を設定し、直交表を選択すると実験を開始することができます。実際には成形条件を変数とする以外に、金型と製品設計の変更に対してもDOEを行い、CAEではメッシュファイルを制御因子とすることで実現することができます。全体的な物理量の最適化に加え、局所的な最適化と測定条件の最適化も一般的な最適化問題です。これらはすべてMoldex3D Studioの豊富な結果項目とDOEウィザードで設定したプローブや測定などのツールによって得られる結果から実現することができます。ソフトウェアによる解析とポストプロセス後、上記の統計データの結果はさまざまな方法で表示され、ユーザーは必要なデータを見つけることができます。例えば、図3のDOE結果から、この事例のそり変形結果は樹脂温度に最も大きく影響され、充填時間は0.24秒、樹脂温度は228°C、保圧時間は3.486秒が最適設計であることがわかります。

図3 そり変形の信号対雑音比(S/N比)応答図

 

図4 応答曲面の計算による実験予測

結論

実験計画法(DOE)は、最適化設計をすばやく見つけ出すだけでなく、影響の大きいキー因子を特定するといった、関連する問題へのソリューションも得ることができます。流動解析ソフトウェアと最適化ソフトウェアとの統合により、さまざまな役割を担うCAEユーザーが直面する課題をより効率的に解決することができます。


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