射出成形シミュレーションにおける高分子結晶化とそのレオロジー特性への影響

Material Science Research Department.Jye Wang

 

 

半結晶性ポリマーにおいて、結晶化は溶融樹脂の固化挙動を支配する極めて重要な物理過程であり、射出成形中の流動挙動に大きな影響を与える。温度変化によって主に粘度が支配される非晶性ポリマーとは異なり、半結晶性材料では、溶融状態の中で秩序だった結晶構造が形成される相転移が同時に進行する。この結晶化過程は、流動中の樹脂構造に新たな拘束条件を付与し、レオロジー応答を本質的に変化させるため、CAE(Computer-Aided Engineering)シミュレーションにおいて明示的に考慮する必要がある。

ポリマーの結晶化は、核生成および結晶成長のメカニズムによって進行し、冷却速度、圧力、せん断履歴といった成形条件に強く依存する。射出成形過程では、高いせん断速度や流動起因分子配向により核生成密度が増加し、とくに金型壁面近傍で顕著となる。

結晶化の進行に伴い、温度依存のみを仮定した WLF(Williams–Landel–Ferry)式では十分に表現できない顕著なレオロジー変化が生じる。結晶構造の形成により非晶相中の分子鎖運動が拘束され、ゼロせん断粘度および粘弾性緩和時間が急激に増加する。この挙動は、結晶化を新たなシフト変数とする時間温度結晶化度重ね合わせ(time–temperature–crystallinity superposition[1]として表現され、見かけ上の溶融樹脂の固化を加速させる。

その結果、ゼロせん断粘度は以下に示す Modified Cross Model (4) によって記述される:

本モデルにおいて、結晶化度は粘度に対して強い非線形影響を及ぼす。結晶領域は、溶融樹脂中で物理的架橋点あるいは固体充填材として振る舞い、ゼロせん断粘度および緩和時間を急激に増加させる。結晶化によるシフト効果は以下の式で表される[2]

ここで、相対結晶化度 θ の増加に伴い、ゼロせん断粘度は指数関数的に増大する。図1は、材料パラメータ a および b によって支配される、結晶化シフト因子と相対結晶化度の関係を示している。

図1 相対結晶化度に対する結晶化シフト因子

 

樹脂成形における流動停止は、温度のみならず結晶化速度論にも支配され、高温域においても急激なレオロジー転移を引き起こす可能性がある。そのため、粘度は温度、圧力、せん断速度、結晶化度を含むプロセス履歴に強く依存する。

図2は、異なる冷却速度条件下におけるポリプロピレン(PP)の(a)結晶化挙動および(b)結晶化依存粘度曲線を示している。冷却速度が高くなるほど、急激な粘度上昇の開始温度が低温側へシフトしており、粘度進化がプロセス条件に依存することが確認できる。

図2 異なる冷却速度条件下における PP の(a)相対結晶化度および(b)粘度曲線

 

固化温度近傍においては、温度依存のみの粘度モデルの限界が顕在化する。同一温度範囲であっても、異なる WLF 外挿式は大きく異なる粘度予測結果を示す。図3に示すように、測定可能温度範囲である 180–220 °C において、WLF-1、WLF-2、WLF-3 の各外挿モデルは顕著に異なる粘度挙動を示しており、比較として異なる冷却速度下で得られた結晶化依存粘度曲線も併記している。

図3 3種類の WLF モデル(実線)と結晶化依存粘度曲線(破線)の比較

 

さらに、板厚 1.5 mm の薄肉平板金型における射出圧力検証結果から、WLF モデルではとくに低射出速度条件下においてノズル圧力を過大または過小評価する可能性があることが示された。一方、温度–結晶化度依存粘度モデルは、広範な射出速度条件において実験圧力データと良好な一致を示している(図4)。

図4 異なる射出速度におけるノズル圧力(1.5 mm 平板金型)

 

この改善効果は低射出速度条件で特に顕著であり、滞留時間の増加により結晶化度が高まり、溶融温度が低下することで、粘度および射出圧力が大幅に上昇する。射出速度の違いにより熱履歴および圧力履歴が変化するため、プロセス依存型粘度モデルの採用が正確な圧力予測には不可欠である。

図5は、各射出速度条件における平均結晶化度および平均溶融温度を示しており、射出速度の増加に伴い溶融温度が上昇し、結晶化度が低下する傾向が確認できる。

図5 V/P 切替時における平均相対結晶化度および平均溶融温度

 

半結晶性ポリマーの CAE シミュレーションでは、結晶化速度論とレオロジー挙動を連成した粘度モデルが不可欠である。Modified Cross Model (4) は、プロセス履歴依存挙動を物理的に妥当な形で表現でき、射出成形中の流動、圧力増加、固化挙動をより高精度に予測することを可能にする。

本モデルによる粘度は、結晶化速度論を含むプロセス履歴を反映しており、広範な射出速度条件において高い予測精度を実現する。

射出成形では、温度および圧力履歴が成形品内部で空間的に分布するため、結晶化によって粘度が急激に増加する温度は一様ではなく、位置依存的となる。その結果、WLF 型の温度依存モデルのみで中~低温域の粘度挙動を記述すると、結晶化が流動停止を支配する領域において大きな予測誤差を生じる可能性がある。

半結晶性ポリマーに対しては、Moldex3D では結晶化速度論と粘度進化を連成した Modified Cross Model (4) の使用を推奨しており、より現実的な固化挙動および成形結果の再現が可能となる。

References:
[1] Acierno, S., Grizzuti, N. J. Rheol., 2003, 47, 563–576.
[2] Lamberti, G., Peters, G. W. M., Titomanlio, G. Int. Polym. Process., 2007, 22, 303–310.

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