近年、長繊維を含む繊維強化樹脂は、自動車をはじめ工業材料として広く使用されています。樹脂にガラス繊維や炭素繊維を加えることによって、小さな重量変化で材料の機械、熱特性を改善することができます。繊維強化樹脂の機械物性と繊維長の関係を図1に示します。繊維を長くすることで、強度や衝撃特性が飛躍的に増加することがわかります。
一方で、射出成形の充填プロセスによって繊維は部分的に配向することが知られており、これによって材料物性の異方性が生じます。繊維が配向している方向の機械物性は、それと垂直な方向と比べて高くなりますので、目的の材料強度を得るには繊維配向の制御が重要となります。その一方で、ランダムな繊維配向を実現することによって、成形品の不均一な反りや収縮を防ぐことが可能になります。
以上のことから、射出成形部品の性能、金型や部品の設計、成形条件を決定するためには、繊維配向を正確に予測する必要があります。
短繊維の配向シミュレーションに関する詳細な技術情報については、本稿の「Conference Paper」セクションをご参照ください。
図1 繊維長と複合材料特性の向上 (出典: Plasticomp)
Moldex3D R11で新たに追加される長繊維配向予測機能を用いることによって、短繊維だけでなく長繊維の繊維配向を予測することができるようになり、繊維強化樹脂(熱可塑性)に対する新しいソリューションをご提供することが可能となります。Folgar-Tuckerモデルに基づくARD(Anisotropic Rotary Diffusion)法を使用することで、繊維配向をより正確に予測できることが知られています。
しかしながら、ARD法を用いるには5つのパラメータを各材料に対して決定する必要があり、その計算方法は効率的ではありません。そこで、Moldex3D R11には新規開発されたiARD(Improved Anisotropic Rotary Diffusion)法(米国特許出願中)が搭載されました。iARDモデルとRPR(Retarding Principal Rate)法と組み合わせて用いることによって、高速で正確な繊維配向の予測が可能となりました。
主な特徴は以下の通りです。
- 簡単なパラメータ設定(iARD- RPRモデルのパラメータは3つのみです)。
- 高速計算(4階の配向テンソル計算について50%以上の高速化を実現)。
- 他のモデルと異なり、流入時の繊維配向の情報が不要。
- マトリクス成分や、繊維の柔軟性、流動場を考慮した長繊維の配向予測が可能。
- 板厚方向の繊維配向と弾性率分布の高精度な予測が可能。
図2は、円盤形状のキャビティに対して中央部分にゲートを設定して、射出成形を行った際の特定位置の繊維配向データです。横軸は板厚方向、縦軸はA11成分で流動方向の繊維配向を示しています。壁面近傍(スキン層)で繊維の配向が強くなっている様子がわかります。Moldex3Dの結果(実線)は実験結果(■)とよく一致していますが、他のモデル(破線)は実験結果を再現できていません。
図2. Moldex3Dの長繊維の配向予測結果(iARD:赤線)は、従来のARDモデル(点線)と比べて実験結果によく一致しています。
Moldex3Dの新しい繊維配向予測機能を用いることにより、設計者や金型設計者にとって、製品の品質制御の向上が可能となります。 繊維配向予測のデモンストレーションや事例の詳細については、WEBサイト(www.moldex3d.com)をご参照ください。